東京公演までに聞いておきたい16のこと(仮) 第5回 劇団壱劇屋 大熊隆太郎さん

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中野劇団は2019年5月に東京・こまばアゴラ劇場で「10分間」を上演します。
10年以上ぶりの東京公演、初のこまばアゴラ劇場
東京公演経験のある関西の劇団にアドバイスをいただいて回ることにしました。

タイトルが(仮)なのは、東京公演までに聞いておきたいことが16も思いつかないかもしれないからです。



第5回は劇団壱劇屋の大熊隆太郎さんにアドバイスをいただきました。
十周年企画でご多忙な隙間を縫ってお話を伺いました。

ちなみにちゃんとした記事も過去にいろいろと作られています。
fringe「大阪・壱劇屋が勝負をかけた3都市ツアーでやった10のこと、公演企画とTwitterの相乗効果で動員目標達成」
http://fringe.jp/topics/casestudies/20160502.html
など。

中野「何回くらい東京公演やってらっしゃるんですか」

大熊「5回ですね。5年連続で5回。
だいたい豊島区が多いです」

中野「会場が毎回違うんですよね? どうやって決めてらっしゃるんですか」

大熊「値段と広さの兼ね合いですね……うちはどうしてもある程度広くないといけないので。前回の劇場は舞台監督さんのお薦めで決めました」

中野「どうやって集客してらっしゃるんですか」

大熊「最初は全然わからなかったので、池袋演劇祭に参加したんですよ。演劇祭なら審査員もいるし集客もあるだろうと。そこで48劇団中、7位に当たる賞をいただいて。
ステージ数が多かったこともあり、360名くらい入りました。
池袋演劇祭は、前夜祭であるCM大会で優勝したのも宣伝になったと思います」


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第26回池袋演劇祭 劇団壱劇屋「UNKNOWN HOSPITOL」2014年9月 てあとるらぽう(豊島区観光協会賞受賞)


大熊「情宣はSNS頼みでしたね。あとは日替わりゲスト」

中野「うちも1回だけ日替わりゲストをやったんですが(※)、どうですか?」


※10分間2016。有北雅彦さんと塩原俊之さんに日替り出演していただきました。


大熊「労力対効果を考え出すとあれですが(笑)、ふだんかかわらない方々とつながりができるというメリットがあります。面識がない方にもお願いして、けっこう出ていただけました。 
事前の稽古はなく、出演シーンの動画を送って確認していただく形をとっています。難しい部分もありますが、やっていても楽しいです。 
最近は、ゲストは役者以外の方にお願いするようにしています。それで別ジャンルから一人でも小劇場にお客さんが来てもらえたら、やる価値はあると思っています」

中野「挟み込みはどうされていますか?」

大熊「カンフェティを利用しています。
王子小劇場代表の玉山悟さんがツイッターに、4万枚挟み込めということを呟いてて、2017年にやってみたんです。
そのせいかは分かりませんが、たしかに2017年から2018年にかけて集客は増えました」


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第31回公演3都市ツアー「新しい生活の提案」2017年6月 萬劇場


中野「4万枚だと、挟み込み先の公演のジャンルを選んでいられませんね」

大熊「月4万枚だと選べませんね。2ヶ月で4万枚だとまぁまぁ選べるので、3ヶ月ペースくらいがいいんじゃないかと。
まず演劇ファンにリーチしないといけないことと、どこにでもある感が出るといいんだと思っています。
東京のチラシはあまりビジュアル重視じゃない印象があるんですよ。情報重視というか」

中野「なんでなんでしょうね?」

大熊「なんでなんでしょうね……関西はチラシも作品の一部として頑張っていますが、関東は情報を伝えるものと割り切っているのかもしれないです。だから凝ったチラシにすれば目立つと思います。
折り込みは自分たちの現存する知識で一番戦えますし、楽ですね」


──壱劇屋さんといえばSNSというイメージがありました。


大熊「ツイッターとか大変じゃないですか。SNSは流れていくから何度もやらないといけないし。うちは劇団員の西分が更新してますが、西分はもう……自分でも言ってますがちょっとした依存症だと思います(笑)。そこは本人の嗜好と役割が合致してよかったなと思ってます」


──いわゆる「タイムラインが荒れる」など、SNSの多用には賛否両論あるようなので、運用は悩んでしまいます。


大熊「そういう意見があるのも承知していますが、フォローして楽しんでくれるお客さんと自分たちの関係性の中で、気にせずやっています。
公演情報の『拡散』とかね、劇団主宰的にはやってほしいから自分でもリツイートしてお願いしますけど、正直恥ずかしい……。
若い劇団員とかが堂々と『発表されました!拡散してくださーい!』とかやってるのを見ると、なんでそこで自撮りあげとんねん、寒っ、とは思いますよ(笑)」


──たぶんこれ今日のハイライト(一番面白い話)なのに、公開できないのが残念です(笑)


大熊「ぜんぜん書いていいですよ」


──本当ですか(笑)


大熊「要はセルフプロデュースできるかどうかなので。うちはまだガンガンお客さんにお願いして宣伝してもらわないといけない。
そういうことをしなくても売れてる劇団とか、売れてるのになんでそんなかっこいいスタンスでいけるのか……とは思ってます。
ちょっと話がそれましたが、東京のことはなるべく向こうの人に頼むのがよいと思います。関西との文化の違いがあるので」

中野「東京に限らず、どこ行っても小屋さんのことが怖いんですよ……いまだに気さくにしゃべれない(笑)」


──先方は気さくにお話ししてくださる方が多いですけどね(笑)


大熊「東京2年目くらいから、挨拶回りに行くようになりました。
シアターガイド、Next、ぴあ、観劇三昧さんあたりですね。若旦那家康さんにかなり助けてもらいました。若旦那さんの紹介で回らせてもらって。
あと、『来年の劇場はもう決まっているけど、その次の劇場を探している』という感じで、劇場にご挨拶を……若旦那さんが言うには"雑談"をしに行きます。
記者会見もしました。制作から記者さんに連絡して、スペースを借りて。
愛知に宣伝に行ったときは、中日新聞の記者さんにつないでもらって、公演後に劇評を載せていただきました。」

中野「東京は1日行くだけでも大変で……何回くらい行くんですか?」

大熊「だいたい1回くらいです。1泊2日で何軒回れるかという。
あとは向こうの知り合いに会ってツイッターでつぶやいてもらって……いやしい気持ちになりますね……」

中野「(笑)」

大熊「だいたい本番1~2か月前くらいに行きますね。あまり早く行ってもあれですが、本番1か月前になると稽古が厳しいので。
けど中野劇団さんは土日しか稽古がないんですよね?」


──本番2か月前でも残り稽古15回とかですね……。余裕をもって行くようにします。


中野「東京までの移動はどうしてます?」

大熊「スタッフはトラックですね。団員はバスで」

中野「クラウドファウンディングされてたんですよね?」

大熊「ひとりの方がドンと出していただけるのもすごくありました……。リターンを作るのにもけっこう負担はあるので、おすすめできるかと言われるとあれかもしれませんが(笑)、作品に寄り添ったリターンが用意できれば喜んでもらえるなと感じてます。
他劇団だと打ち上げ参加権をリターンにしたりしていますね」

中野「打ち上げ毎日行きます?」

大熊「僕は行きますが劇団員が行かないですね……。僕が行けばまぁゲストの方がいても成立してるかと思ってます。
東京のゲストは呼ばないんですか?」

中野「呼びたくはあるんですが、稽古なしでいいなら……。
ゲストの方とのやりとりって誰がやってます?」

大熊「まちまちです。僕か西分とか。つながりある人が連絡してることもありますし。
アフタートークとかは?」

中野「やります?」

大熊「やらないです……あ、やりました」

中野「しゃべるのが苦手で……昔やったときもあまりいい思い出がなくて」

大熊「アフタートークだとゲスト出演や他のイベントと違って準備がいらないのはいいですね」

中野「グッズって何が売れます?」

大熊「DVDと台本です。Tシャツは売れないですね。東京と愛知は全然売れないです」

中野「良かった、Tシャツ売れないのうちだけかと……。
写真はどうですか?」

大熊「写真も売っていてちょこちょこ買ってくれますが、主力は公演グッズですね、パンフとか。劇団員にカメラマンがいるのでその辺は強みです。
台本は……そういう意味ではひどい商品です……。コピー用紙に印刷してクリアファイルに入れてますが、それでも売れます。1200円でも売れました。知的財産としての値段だと思ってます……」


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知的財産を売る男ふたり。


中野「台本に関しては、製本したい、本にしたい思いもあるので……。
サインとかあります?」

大熊「苦手ですわ……最初は考えてなかったんですよ。その場で考えたサインだったから全部違います」

中野「グッズの製作費が年々上がってはいるんですが、値上げのタイミングが難しくて……今はDVDが1本1500円から2000円です」

大熊「安いですね。うちは観劇三昧さんに委託しています。スピード配信プランだと、オプションでリアルタイムスイッチングのライブ配信もできるので重宝しています。これも『観てください』って自分からSNSで言わないといけませんが」

中野「無料配信すると映像で満足されて生の舞台を観に来てくれないんじゃないかという不安があって……壱劇屋さんみたいな作風なら『これを生で観てみたい!』と思えるのですが、うちは演目的に地味なので」

大熊「そんなことはないと思いますよ(笑)
『10分間』は僕、以前に上演されたバージョンを観ていますが、あまりネタバレにならない程度に言うと『もう一人出てきたー!』くらいまでは配信してもいいんじゃないかと思っています」

中野「えっ、開始から一時間分くらいは見せてしまうことになりますよ」

大熊「その後の展開がさらにあるので、あそこまでは全然見せていいと思いますよ。『この後どうなるんや』って興味をひかれるので。
作品内容をしっかりめに流すだけでも、宣伝だけでいうと流すほうが宣伝になると思います。
それか、白紙の状態で観てほしいというこだわりを貫くか」

中野「以前はそういうこだわりがあったのですが、黙っていてはお客さんは来ないという結論は出ました(笑)
リピーター割引とか、色んな割引があって、どれがいいのかと……」

大熊「うちは初日割はやります」

中野「じゃあうちも東京公演はしましょう(笑)」

大熊「金曜夜はお客様が入るんですが、日曜夜は全然入らないです。この間めずらしく千秋楽が一番入ったんです。最初と最後が多いと嬉しいですね。
頼れるのが口コミしかないので、とにかく最初に来てもらいたいと思っていて。
うちは公開稽古とかもやってます。ゲネプロの公開はスタッフさんに負担をかけるので。
稽古場の時点からうちこんでもらうのはすごくメリットがあると思っていて、僕らは公開稽古に来ていただいた方に稽古写真を撮ってもらってSNSにあげてもらっています。公開通し稽古は写真なしでアンケートをあげさせてもらいました。
とにかくお客さんの口コミが頼りです。
あとはシーン中の宣伝動画をあげるとか。今は撮った映像をそのままツイートできるので、誰でもできるからすごく楽になりました。このあたりもSNS中毒の劇団員がいると楽です(笑)」

中野「SNSの重要性は最近身に染みています。
おかげさまで最近は集客が少しずつ増えていて、客席数が多い会場を選ぶようになっていますが、僕チケット代はできるだけ値上げしたくなくて、物販でがんばらないとさすがにペイできなくなってきています。缶バッジとか売ってますか?」

大熊「売ってました。全部で1000個作って、さすがに全部は売り切れませんでしたがだいぶ売れました」

中野「グッズって、買って何に使うのかな、申し訳ないなと思ってしまって……」

大熊「『グッズを買いたい』と思ってくださる方がいらっしゃるので。クラウドファウンディングとかまさにそうで。モーションギャラリーは、全額達成しなくても到達度合によって支払いがあるので、やりやすいですよ」

中野「助成金は受けていますか?」

大熊「以前に制作さんがやりましょうかと言ってくださってやってもらいました。2018年は自分でやりましたが『これだけ書類を書いて○万円か……』みたいな気持ちにもなります(笑)」

中野「もらってしまうと自由な創作がしにくくなるんじゃないかとか思ってしまって。例えば助成金をもらう相手を風刺しにくくなるとか。といって別に風刺するような作品は書いてないんですけど」

大熊「ここで引き合いに出すのもなんですが、かのうとおっさんももらってましたよ。かのうとおっさんは自由な創作がしにくくなっている印象はないです(笑)
芸術的に価値があるところはもらったらいいと思いますよ」


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背景のお店は実際にお話をうかがったお店とは別の店です(写真を撮り忘れて急遽街角で撮りました)


──東京公演について、他に何かアドバイスなどはありますか。


大熊「東京に言ってお客さんによく言われるのは、年一回公演は少ない、忘れるからと。継続するならせめて次の東京公演の予定は決めておいてほしいと。
けどそれはムリやなと……せめて『来年ツアーしようと思ってます』くらいは言うようにしています」

中野「でも年一回でもすごいと思います。僕らなんか10年に一回で……」

大熊「なんでまた今年やろうと思ったんですか?」

中野「東京の人に知ってほしいっていうのはありました。この作品はうちの武器だと思ってるし、武器だと思ってるものはもうちょっと知ってもらわないと、と」

大熊「劇団員は増やさないんですか?」

中野「壱劇屋さんは最近劇団員を増やされたんですよね?」

大熊「今23人になって、ほぼエグザイル状態です。そのうちスタッフは2人だけです。もちろん全員出られるわけじゃないので、毎回選抜はしますが」

中野「なんでそんなに入れようと思ったんですか?」

大熊「劇団を回していくためです。うちは竹村という、作演出がもうひとりいるので、上演の機会がけっこう多いので。イベント出演も多いです。
劇団員の真野絵里さんとか今どうされてるんですか?」


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劇団員の真野絵里。


中野「育児でなかなか。今回は日替わりで出演しますが。子育て中の劇団員が増えてきて……」

大熊「この間ユリイカ百貨店さんに行ったら、お子さんがいっぱい来てました。出演者にママさんが多いので、シーン中走り回ったりします。そういう形式で続けてらして。
中野劇団は社会人でも演劇をしたい人の受け皿にはなれないんですか?」

中野「最初はそう思ってたんですが、結局みんな続かなくて……。
でも人がいっぱいいたらやれることは広がりそうですね」

大熊「うちも人が増えることに懸念を持つ劇団員はいましたが、僕が『いいんちゃうか』ということで今に至っています」


──本日は長時間本当にありがとうございました。再確認ですが、若い劇団員のツイッターが寒いと仰ってたのは……


大熊「全然書いていいですよ(笑)」


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ありがとうございました!


東京公演までに聞いておいたことまとめ
SNSは恥ずかしい
・でも大事




次回公演情報

壱劇屋さん
東阪二都市ツアー2019「Pickaroon!」
2019年7月5日(金)~7日(日)大阪公演
2019年7月26日(金)~29日(月)東京公演
https://stage.corich.jp/stage_main/81203 


大熊隆太郎さん
ノンバーバルパフォーマンス「ギア-Gear-」レギュラー出演
キャストスケジュール https://www.gear.ac/ticket/cast_schedule/ 
予約フォーム(大熊隆太郎にチェック)https://opossum.jp/form/?Ks6ncjQsrgRpay5JsAyN7hTV7DcC*ifnzZiCV8OnDTw- 

Kiss FM KOBE「STORY FOR TWO」レギュラー出演 https://www.kiss-fm.co.jp/iphone/streaming/story_for_two/ 


中野劇団
第20回公演「10分間2019~タイムリープが止まらない」
2019年5月10日(金)-12日(日) 大阪・HEP HALL
2019年5月24日(金)-26日(日) 東京・こまばアゴラ劇場
https://stage.corich.jp/stage_main/79825